静止エネルギー

静止エネルギー(せいしエネルギー、: rest energy[1])は、アインシュタイン特殊相対性理論によって示された、質量が存在することにより生じるエネルギー。質量 m {\displaystyle m\,} の物体は、光速 c {\displaystyle c\,} を用いて、

E 0 = m c 2 {\displaystyle E_{0}=mc^{2}\,}

で表される静止エネルギー E 0 {\displaystyle E_{0}\,} を持つ。運動エネルギーポテンシャルエネルギーとは異なるもので、質量が存在するだけで生じる。

この式は、質量を持つ物体には膨大なエネルギーが内在していることを示している。そして、実際に質量をエネルギーに変換することは可能である。例えば、電子陽電子を衝突させると、これらの粒子が対消滅し、元の質量に応じたエネルギーが発生する。また、原子核反応でエネルギーが発生する場合には、反応後の質量はわずかに減少するし(質量欠損)、一般の化学反応でも、非常にわずかではあるが質量が変化する。

相対論におけるエネルギー

特殊相対性理論によれば、運動する物体のエネルギーは次の式で表される。

E = m 2 c 4 + | p | 2 c 2 {\displaystyle E={\sqrt {m^{2}c^{4}+\left|{\boldsymbol {p}}\right|^{2}c^{2}}}}

ここで、 E {\displaystyle E\,} はエネルギー、 m {\displaystyle m\,} は質量、 p {\displaystyle {\boldsymbol {p}}} 運動量 c {\displaystyle c\,} は光速である。また、運動量 p {\displaystyle {\boldsymbol {p}}} と速度 v {\displaystyle {\boldsymbol {v}}} の関係は次の式で表される。

p = v E c 2 {\displaystyle {\boldsymbol {p}}={\frac {{\boldsymbol {v}}E}{c^{2}}}}

これらから、エネルギーと速度の関係は次の様になる。

E = m c 2 1 | v | 2 / c 2 {\displaystyle E={\frac {mc^{2}}{\sqrt {1-\left|{\boldsymbol {v}}\right|^{2}/c^{2}}}}} …(式1)

この式をテイラー展開すると次の様になる。

E = m c 2 { 1 + 1 2 ( | v | c ) 2 + 3 8 ( | v | c ) 4 + 5 16 ( | v | c ) 6 + } {\displaystyle E=mc^{2}\left\{1+{\frac {1}{2}}\left({\frac {\left|{\boldsymbol {v}}\right|}{c}}\right)^{2}+{\frac {3}{8}}\left({\frac {\left|{\boldsymbol {v}}\right|}{c}}\right)^{4}+{\frac {5}{16}}\left({\frac {\left|{\boldsymbol {v}}\right|}{c}}\right)^{6}+\cdots \right\}}

この式は、速度 v {\displaystyle {\boldsymbol {v}}} が光速に対して十分小さい ( | v | 2 c 2 {\displaystyle \left|{\boldsymbol {v}}\right|^{2}\ll c^{2}} ) 場合は、次のようになる。

E = m c 2 + 1 2 m | v | 2 {\displaystyle E=mc^{2}+{\frac {1}{2}}m\left|{\boldsymbol {v}}\right|^{2}}

m c 2 {\displaystyle mc^{2}\,} は最初に述べた静止エネルギーであるので、結局式は次のようになる。

E = E 0 + 1 2 m | v | 2 {\displaystyle E=E_{0}+{\frac {1}{2}}m\left|{\boldsymbol {v}}\right|^{2}}

つまり、速度が小さい場合は、質量 m {\displaystyle m\,} の物体が速度 v {\displaystyle {\boldsymbol {v}}} で動いている場合の運動エネルギーが 1 2 m | v | 2 {\displaystyle {\frac {1}{2}}m\left|{\boldsymbol {v}}\right|^{2}} になるというニュートン力学と同じ結論になる。

なお、式1を導出するのに、 E 0 = m c 2 {\displaystyle E_{0}=mc^{2}\,} m {\displaystyle m\,} に相対論的質量

m r = m 1 | v | 2 / c 2 {\displaystyle m_{r}={\frac {m}{\sqrt {1-{\left|{\boldsymbol {v}}\right|^{2}/c^{2}}}}}}

を代入するという説明がなされることがあるが、正しい説明とは言えない。まず、相対論的質量という概念自体にあまり意味がない(相対論的質量を参照)。そして、 E 0 = m c 2 {\displaystyle E_{0}=mc^{2}\,} という式は、静止エネルギーと質量の関係を表している式であるから、相対論的質量という質量とは異なるものを代入して、運動している物体のエネルギーが得られるかどうかは定かではない。


脚注

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  1. ^ 文部省日本物理学会編『学術用語集 物理学編』培風館、1990年。ISBN 4-563-02195-4。 

関連項目

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